自動化する業務の選び方|RPA・AIに向く5つの基準と、人の確認を残す工程の決め方

「AIで何か自動化して」と言われたものの、どの業務から手を付ければよいか分からない。RPAを入れたのに、いつの間にか使われなくなった。2026年版の中小企業白書でも、中小企業がAI活用に取り組まない理由で最も多かったのは「活用する業務がイメージできていない」でした。
つまずきの多くは、ツールを先に決めて、業務の選び方と任せ方を後回しにすることから起きます。この記事では、自動化に向く業務を5つの基準で選び、業務フローの工程ごとに「なくす」「RPA」「AI」「人が確認」「人が判断」の印を付けて任せる範囲を決める手順を、受注処理の例で解説します。
この記事でわかること
- 自動化に向く業務を選ぶ5つの基準と、候補を比べる判定表
- 自動化の前に「なくす・まとめる・入れ替える」を見る理由
- RPAとAIの得意な作業と「間違え方」の違い
- 業務フローの工程に5つの印を付けて、AIに任せる所と人の確認を残す所を決める手順
- 稟議に出す前にそろえる3つの準備と、よくある失敗の避け方
自動化に向く業務を選ぶ5つの基準と判定表
候補の業務は「量・手順・入力・間違えたときの影響・この先も続くか」の5つで比べ、年間の作業時間が多く、手順を言葉にでき、入力がデータになっている業務から選びます。ツールを先に決めるのではなく、業務を先に決めるのが順番です。
この記事では、自動化の候補がいくつか挙がっている前提で進めます。候補の洗い出しそのものは「業務棚卸のやり方」の記事で扱っています。「業務改善の進め方」の記事の6ステップでいえば、改善策を立てるステップ4の中で、自動化を選ぶときの判断に当たります。
判定の流れ:自動化の前に「なくせないか」を先に見る
判定は、いきなり「自動化できるか」から始めないのがコツです。最初に「その業務はなくせないか」を見て、残った業務だけを年間の作業時間・手順・入力の順にふるいにかけます。5つの基準のうち「続く期間」は廃止予定の業務として最初の「なくせるか」で落ち、「影響」は着手するかではなく人の確認の置き場所を決める材料なので、図1には入れていません。
図の内容(テキスト)
図に出てくる項目
- 候補の業務
- なくせるか?
- やめる・まとめる
- 年間の作業時間は多いか?
- 後回しにする
- 手順を言葉にできるか?
- 先に手順をそろえる
- 入力はデータになっているか?
- 先にデータにする
- 工程ごとに印を付ける
流れ(矢印)
- 候補の業務 → なくせるか?
- なくせるか? →(はい)→ やめる・まとめる
- なくせるか? →(いいえ)→ 年間の作業時間は多いか?
- 年間の作業時間は多いか? →(少ない)→ 後回しにする
- 年間の作業時間は多いか? →(多い)→ 手順を言葉にできるか?
- 手順を言葉にできるか? →(できない)→ 先に手順をそろえる
- 手順を言葉にできるか? →(できる)→ 入力はデータになっているか?
- 入力はデータになっているか? →(紙・FAX・電話)→ 先にデータにする
- 入力はデータになっているか? →(メール・システム)→ 工程ごとに印を付ける
図1で「先に手順をそろえる」「先にデータにする」に進んだ業務は、自動化をあきらめるという意味ではありません。自動化の前に、もう一段の準備が要るという意味です。
5つの基準と、◎○△の付け方
5つの基準は次の表のとおりです。◎と△の目安は、この記事で例として置いた値です。業種や会社の規模で変わるので、自社で使うときは候補どうしを比べて相対的に付ければ十分です。
| 基準 | 見る点 | ◎の目安(この記事での目安) | △の目安(この記事での目安) |
|---|---|---|---|
| 量 | 1件の時間×件数で出す年間の作業時間 | 年500時間以上 | 年50時間未満 |
| 手順 | 手順を言葉にできるか、例外はどのくらいか | 例外が1割未満 | 担当者ごとにやり方が違う |
| 入力 | 入力がデータになっているか | メール・システムの画面 | 紙・FAX・電話 |
| 影響 | 間違えたとき社外に出るか、取り消せるか | 社内で直せる | 支払い・契約・顧客への約束 |
| 続く期間 | 来期も同じ形で続くか | 当面変わらない | 廃止や制度変更の予定がある |
年間の作業時間は「1件の時間×1日の件数×年間の営業日数」で出します。たとえば1件8分・1日40件・月20営業日なら、8分×40件×20日×12か月=76,800分で、年約1,280時間です。件数が多い業務ほど、1件あたり数分の差が年間で大きな時間になります。
自動化に向かない業務の3つの形
- 年に数回しかない業務:仕組みを作って保守する手間のほうが、手作業の時間より大きくなりがちです
- 毎回やり方が違い、判断が中心の業務:価格交渉や採用の見極めのように、正解が案件ごとに変わる仕事です
- 近く廃止・変更が決まっている業務:システムの入れ替えや制度の変更が控えていると、作った仕組みがすぐ使えなくなります
「向かない」は「ずっと向かない」ではありません。担当者ごとに手順が違う業務は手順をそろえれば、紙で届く業務はデータにすれば、候補に戻ってきます。
例:部品商社が3つの候補を比べた判定表
たとえば従業員30名の部品商社で、社長から「AIで何か自動化できないか」と言われた総務兼DX担当が、3つの候補を比べたとします。
| 業務 | 年間の作業時間 | 手順 | 入力 | 影響 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 受注処理 | ◎(1日40件×8分で年約1,280時間) | ○(例外は在庫切れとFAX注文) | ○(メール9割・FAX1割) | △(注文請書が顧客に届く) | 最優先。ただし人の確認を残す |
| 月次営業報告書の作成 | ○(月1回×6時間で年72時間) | ◎ | ◎(販売管理のデータ) | ◎(社内だけ) | 受注処理と比べると量が少ない。先に「誰が読んでいるか」を確かめる |
| 面接日程の調整 | ○(月15件×20分で年60時間) | △(候補者ごとに調整) | ○(メール) | ○ | 後回し |
3つとも「この先も続くか」は当面変わらない前提です。受注処理は影響が△ですが、候補から外すのではなく「人の確認を残して自動化する」と判定しています。影響の大きさは、自動化するかどうかより、どこに人の確認を置くかを決める材料になるからです。
ミナミさん
現場の業務改善担当
うちも「とりあえずAIで報告書を自動で作れないか」って話になってるんですが……。
スパーク先輩
DrillSparkコンサルタント
年に72時間の仕事を自動化する前に、その報告書を誰が読んでいるかを先に聞いてみよう。量の基準で見ると、毎日5時間以上かかっている受注処理のほうが先なんだ。
判定で上位に来た業務を1つ、まず業務フロー図にしてみてください。この記事の後半では、その図の工程1つずつに印を付けて、AIに任せる所と人が確認する所を決めていきます。
自動化の前にやる3つの見直し|なくす・まとめる・入れ替える
自動化する前に「なくせないか」「まとめられないか」「順番や担当を入れ替えられないか」を先に問わないと、要らない作業を速くするだけになります。判定の流れ(図1)の最初に「なくせないか」を置いたのは、このためです。
要らない作業を自動化すると、要らない作業が速く回るだけ
ECRS(イクルス)は、排除(なくす)→結合(まとめる)→再配置(順番や担当を入れ替える)→簡素化(簡単にする)の順で業務を見直す、改善の4原則です。自動化やAIの導入は最後のS(簡素化)に当たります。
4原則そのものの説明は「ECRS(イクルス)とは?」の記事で扱っています。この記事では、最初の3つを自動化の前の「問い」として使います。
3つの問い(なくす・まとめる・入れ替える)
業務フロー図を見ながら、次の3つを工程ごとに確かめます。どれかに当てはまった工程は、自動化の候補から外れるか、形が変わります。
| 問い | 業務フロー図で見る所 | 部品商社の例 |
|---|---|---|
| なくせないか | 誰も使っていない書類、二重の確認 | 月次営業報告書は2人しか読んでおらず、内容は会議で口頭説明していた。報告書をやめ、会議資料に3行を足した |
| まとめられないか | 同じ相手に何度も送っている、同じ内容を2回入力している工程 | 注文請書と出荷案内を別々のメールで送っていた。1通にまとめた |
| 順番や担当を入れ替えられないか | 待ちや戻りが起きる工程、入力の形を変えられる工程 | FAXで注文する取引先3社に、メールかWebフォームへの切り替えを頼んだ。「FAXを書き写す」工程そのものが消えた |
例:報告書とFAX注文で見直した結果
たとえば判定表で「量が少ない」とされた月次営業報告書は、自動化を検討する前に読み手を聞いたところ、2人しか読んでいませんでした。この場合、年72時間の作業は自動化するまでもなく、ほぼなくなります。
受注処理でも、FAXの取引先がメールに切り替えてくれれば、FAXの文字をAIに読ませる仕組みを作る必要すらなくなります。切り替えられない取引先が残る場合だけ、その工程をどう扱うかを後の章の印で決めます。
RPAとAIの違い|工程は3種類に分けられる
RPAは「決まった画面操作をそのまま繰り返す」道具、生成AIは「形のそろわない文章を読む・分ける・下書きする」道具で、どちらにも任せられない「判断と責任」が人に残ります。判定表で選んだ業務も、中の工程を見るとこの3種類に分かれます。
RPAが得意なこと:決まった手順の画面操作
RPA(Robotic Process Automation)は、パソコン上の定型操作をソフトに記録させて、自動で繰り返す仕組みです。受注システムへの転記、在庫の照会、決まった文面のメール送信のように、手順が完全に決まっている作業に向きます。
AIが得意なこと:形のそろわない文章を読む・分ける・下書きする
生成AIは、書き方が人ごとに違うメールやPDFから必要な項目を抜き出したり、問い合わせを種類ごとに分けたり、返信の下書きを作ったりするのが得意です。RPAでは扱いにくかった「毎回少しずつ形が違う入力」を受け持てます。
たとえば受注処理なら、1通の注文メールから品番・数量・希望納期の3項目を抜き出す工程がAI、その3項目を受注システムに入力する工程がRPA、在庫がないときに顧客と納期を相談する工程が人、という分け方になります。1つの業務の中で、両方を組み合わせることは珍しくありません。
| 観点 | RPA | 生成AI | 人 |
|---|---|---|---|
| 得意な作業 | 決まった画面への入力・照会 | 文章を読む・分ける・下書きする | 例外の扱い・約束・最終判断 |
| 入力の形 | 決まった画面・表 | メール・PDF・自由記述 | 形を問わない |
| 手順の決まり方 | 完全に決まっている | 多少ゆれてよい | 案件ごとに違ってよい |
| 間違え方 | 画面や項目が変わると止まりやすい | 止まらずに、もっともらしく間違える | 慣れや思い込みで見落とす |
| 向く作業の例 | システムへの転記、定型メールの送信 | 注文メールの項目の抜き出し、返信の下書き | 値引き、納期の約束、例外の受け付け |
2つは間違え方が違う
RPAは画面や項目の配置が変わると止まりやすい一方、止まるので「おかしい」と気づけます。生成AIは、文法的には正しいのに事実と違う内容を出すことがあり、止まらずにもっともらしく間違えます。
この「止まる間違い」と「気づかれにくい間違い」の差が、人の確認を置く場所を決めます。次の章で工程に印を付けるときは、【AI】を付けた工程のすぐ後ろに、人がどう確かめるかを必ずセットで考えてください。
業務フローの工程に5つの印を付ける4ステップ
業務単位で「自動化する」と決めたら、次は業務フロー図の工程1つずつに「なくす」「RPA」「AI」「人が確認」「人が判断」の印を付け、任せる範囲を工程の単位で決めます。業務を丸ごと自動化しようとすると、例外の多い工程に引きずられて、結局手作業に戻りやすいからです。
5つの印と付け方の基準
迷いやすいのは【AI】と【人が確認】の境目です。AIが読んだ結果を人が見る工程は、【AI】の工程とは別に【人が確認】の工程として描きます。
| 印 | 付ける工程 | 受注処理の例 |
|---|---|---|
| 【なくす】 | 自動化の前の見直し(なくす・まとめる・入れ替える)で、要らないと分かった工程 | FAXの内容を書き写す |
| 【RPA】 | 決まった画面への入力・照会、定型メールの送信 | 受注システムへの入力、在庫の照会、注文請書の送信 |
| 【AI】 | 形のそろわない文章を読んで項目に分ける、下書きする | 注文メールから品番・数量・希望納期を抜き出す |
| 【人が確認】 | 結果が社外に出る、取り消しにくい工程の手前 | 注文請書を送る前の確認 |
| 【人が判断】 | 例外・交渉・約束が絡む工程 | 在庫切れのときの納期の相談 |
印は、工程名の頭に【AI】のように書き添えるだけで十分です。専用の記号や書式は要りません。
ステップ1:現状の流れを図にする
まず、今の受注処理を始まりから終わりまで図にします。理想の流れではなく、FAXの書き写しや上長の全件確認のような「今やっていること」をそのまま描くのがポイントです。記号や描き方は「業務フローの作り方」の記事で扱っています。
ステップ2:工程ごとに印を付ける
図の工程を1つずつ見て、5つの印のどれかを付けます。迷ったら「この工程の入力は決まった画面か、形のそろわない文章か」「結果が社外に出るか」の順に考えると決めやすくなります。
図の内容(テキスト)
図に出てくる項目
- 注文が届く
- 届いた手段は?
- 【AI】注文内容を読む
- 【なくす】FAXの内容を書き写す
- 【RPA】受注システムに入力する
- 【RPA】在庫を確認する
- 在庫はあるか?
- 【人が確認】上長が全件を確認する
- 【人が判断】顧客と納期を相談する
- 【RPA】注文請書をメールで送る
- 完了
流れ(矢印)
- 注文が届く → 届いた手段は?
- 届いた手段は? →(メール)→ 【AI】注文内容を読む
- 届いた手段は? →(FAX)→ 【なくす】FAXの内容を書き写す
- 【AI】注文内容を読む → 【RPA】受注システムに入力する
- 【なくす】FAXの内容を書き写す → 【RPA】受注システムに入力する
- 【RPA】受注システムに入力する → 【RPA】在庫を確認する
- 【RPA】在庫を確認する → 在庫はあるか?
- 在庫はあるか? →(ある)→ 【人が確認】上長が全件を確認する
- 在庫はあるか? →(ない)→ 【人が判断】顧客と納期を相談する
- 【人が判断】顧客と納期を相談する → 【人が確認】上長が全件を確認する
- 【人が確認】上長が全件を確認する → 【RPA】注文請書をメールで送る
- 【RPA】注文請書をメールで送る → 完了
図2では、FAXの書き写しに【なくす】が付いています。自動化の前の見直し(なくす・まとめる・入れ替える)の章で、取引先にメールへの切り替えを頼むと決めたからです。在庫切れのときの納期の相談は、顧客への約束が絡むので【人が判断】のまま残します。
ステップ3:人の確認は「条件」で絞る
印を付けると、上長の全件確認が気になってきます。全件を人が見るなら、前の工程を自動化しても上長の待ちは減りません。そこで確認を「条件」で絞ります。
たとえば、金額50万円以上の注文だけ上長が確認し、それ以外は担当者がAIの読み取り結果と元のメールを見比べる、と決めたとします。1日40件のうち50万円以上が4件なら、上長の確認は1日40件から4件になります。
ステップ4:印を付けた後の流れを描き直す
最後に、印に合わせて流れを描き直します。【なくす】の工程は消し、【人が確認】には条件の分岐を入れ、【AI】【RPA】の工程は誰(何)がやるのかを工程名に書きます。
図の内容(テキスト)
図に出てくる項目
- 注文メールが届く
- 【AI】品番・数量・納期を抜き出す
- 【RPA】受注システムに入力する
- 【RPA】在庫を照会する
- 在庫はあるか?
- 【人が判断】担当が顧客と納期を相談する
- 金額は50万円以上か?
- 【人が確認】上長が内容を確認する
- 【人が確認】担当が読み取り結果と原文を見比べる
- 【RPA】注文請書を送る
- 完了
流れ(矢印)
- 注文メールが届く → 【AI】品番・数量・納期を抜き出す
- 【AI】品番・数量・納期を抜き出す → 【RPA】受注システムに入力する
- 【RPA】受注システムに入力する → 【RPA】在庫を照会する
- 【RPA】在庫を照会する → 在庫はあるか?
- 在庫はあるか? →(ない)→ 【人が判断】担当が顧客と納期を相談する
- 在庫はあるか? →(ある)→ 金額は50万円以上か?
- 【人が判断】担当が顧客と納期を相談する → 金額は50万円以上か?
- 金額は50万円以上か? →(はい)→ 【人が確認】上長が内容を確認する
- 金額は50万円以上か? →(いいえ)→ 【人が確認】担当が読み取り結果と原文を見比べる
- 【人が確認】上長が内容を確認する → 【RPA】注文請書を送る
- 【人が確認】担当が読み取り結果と原文を見比べる → 【RPA】注文請書を送る
- 【RPA】注文請書を送る → 完了
図2と図3を並べると、FAXの工程が消え、上長の確認が条件付きになり、在庫切れの相談は人に残り、注文請書は確認の後に送る、という変化が一目で分かります。1件8分のうち人の手が残るのは確認の数分、という見込みもこの図から立てられます。ただし、これは見込みです。実際の時間は、試してから測ります。
DrillSparkでは、日本語で業務の流れを説明するとAIがフローチャートの下書きを作り、対話しながら直せます。工程名の頭に【AI】【人が確認】のような印を書いておけば、チームで図を見たときに、どこまで任せているかがすぐ分かります。
人の確認を残す工程を決める3つの問い
人の確認は全工程ではなく、「結果が社外に出る」「間違えると取り消せない」「判断の理由を説明する必要がある」の3つに当てはまる工程の手前にだけ残します。どこにでも人を置くと、自動化した意味がなくなるからです。
3つの問い
| 問い | 当てはまる工程の例 | 残し方 |
|---|---|---|
| 結果が社外に出るか | 注文請書・見積書・顧客への返信 | 送る前に担当者が確認する |
| 間違えると取り消せないか | 支払い・発注の確定・データの削除 | 実行のボタンは人が押す |
| 判断の理由を説明する必要があるか | 値引き・与信・例外の受け付け | AIは材料をそろえるまで。決めるのは人 |
線引きは「作業の種類」ではなく「間違えたときに何が起きるか」で決めます。同じAIの下書きでも、社内メモの言い回しと顧客への納期回答では、人が見る必要の重さがまったく違います。
AIの工程のすぐ後は、確認のしかたを具体的に決める
RPAの間違いは止まるので気づけますが、AIはもっともらしく間違えます。工程に「AIの結果を確認する」とだけ書くと、確認する人は何を見ればよいか分からず、ざっと眺めて終わりになりがちです。
受注処理なら「品番・数量・希望納期の3項目を、元のメールと見比べる」のように、見る項目と見比べる相手まで工程に書きます。確認にかかる時間も、1件あたり1〜2分など目安を決めておくと、確認が重くなりすぎたときに気づけます。
漫然とした全件の目視確認は長続きしない
変化のほとんどない画面を人が見続ける監視は長く続かない、という指摘は、Bainbridge(1983)の論文「Ironies of Automation(自動化の皮肉)」をはじめ、自動化の研究で古くからあります。何を見るか決めずに全件を眺める設計は、最初は丁寧でも、だんだん「見ているつもり」の確認になりがちです。
ただし、図3の担当者の確認のように、見る項目(品番・数量・希望納期)と見比べる相手(元のメール)が決まった短い照合は、全件でも続けられます。長続きしないのは、何を見るか決まっていない「全件の眺め」です。上長の承認のような重い確認は、金額などの条件で絞るか、抜き取りにします。
最初は確認の範囲を広めにとり、確認で直した件数を見ながら狭めていくと安全です。承認・エスカレーション・定期監査といった確認の型は、「AIエージェントと人間の業務設計」の記事で詳しく扱っています。
ミナミさん
現場の業務改善担当
AIがやった分も、結局ぜんぶ見ないと怖くて……。
スパーク先輩
DrillSparkコンサルタント
何も決めずに全部眺めるなら、自動化した意味がなくなるよ。見る項目を決めた短い照合なら全件でも続くよ。上長の確認は「この条件のときだけ見る」と図に書いておけば、見る人も見なくていい人も迷わない。最初は広めに見て、直した件数が減ってきたら絞ればいいんだ。
稟議に出す前にそろえる3つの準備
稟議には「今かかっている年間の作業時間」「自動化する工程と人が残る工程を描いた図」「小さく試す範囲と期間」の3つをそろえます。この3つがあると、上長は「何に、どこまで任せ、失敗したらどうなるか」を1回で判断できます。
今の作業時間を数週間記録して年間の時間にする
自動化の前に、今の1件あたりの時間と件数を記録します。期間は2〜4週間ほどが目安です。月末に注文が集中するなど忙しい時期がある業務は、その時期を含めたかどうかも書き添えます。導入前の数字がないと、試した後に「速くなったか」を誰も言えなくなります。
印を付けた図を1枚添える
図3のように印を付けた図を添え、「どこまで自動化し、どこに誰の確認を残すか」を1枚で見せます。【人が確認】【人が判断】の工程には担当者の名前か役職を書き、責任の所在をはっきりさせます。文章だけの稟議より、読み手が質問すべき所を見つけやすくなります。
1業務・1か月で小さく試す
最初から業務全体を自動化せず、一部の工程で試します。受注処理なら「注文メールの読み取りと受注システムへの入力だけ」を1か月試し、人の確認で直した件数を数えます。直した件数が減っていけば、次の工程に広げる判断材料になります。
| 項目 | 書く内容 | 受注処理の例 |
|---|---|---|
| 対象業務 | 自動化する業務の名前と範囲 | 受注処理(FAXの取引先にはメールへの切り替えを依頼中) |
| 今の年間時間 | 記録した1件の時間×件数から出した年間の時間 | 1日40件×8分で年約1,280時間 |
| 自動化する工程 | 【AI】【RPA】を付けた工程 | 注文メールの読み取り、受注システムへの入力、在庫の照会 |
| 人が残る工程と担当 | 【人が確認】【人が判断】の工程と担当者 | 50万円以上は上長が確認、在庫切れの納期相談は営業担当 |
| 試す範囲と期間 | 最初に試す工程と期間 | 読み取りと入力だけを1か月 |
| 判断に使う数字 | 続けるか、広げるかを決める数字 | 人の確認で直した件数、1件あたりの時間 |
効果をどの指標で測るかの設計は、「As-Is/To-Be分析のやり方」の記事で扱っています。稟議の段階では、導入前の数字と、試した後に見る数字の名前がそろっていれば十分です。
受注処理を図にするときは、受注から出荷までを描いたテンプレートを下敷きにすると早く進みます。製造業向けのテンプレートなので、商社なら生産・製造のレーンを外して営業と物流だけ残し、自社の工程に書き換えてから印を付けてみてください。無料プランでAIの下書きも試せます。
業務自動化でよくある5つの失敗と対策
自動化の失敗は、ツールや技術よりも「選び方」と「任せ方」の順番を飛ばしたところで起きます。5つの失敗のうち、2つは業務を選ぶ段階、3つは任せ方を決める段階のものです。
選び方の失敗
| よくある失敗 | なぜ起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| ツールを先に決めて、使える業務を後から探す | 業務を選ぶ基準がない | 5つの基準で候補を比べてから、ツールを選ぶ |
| 要らない作業を自動化した | なくす・まとめるの見直しを飛ばした | 自動化の前に3つの問い(なくす・まとめる・入れ替える)を先に当てる |
任せ方の失敗
| よくある失敗 | なぜ起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| 例外が多い業務を丸ごと自動化し、結局手作業に戻った | 工程の単位で分けていない | 例外の工程には【人が判断】の印を付け、自動化の範囲から外す |
| AIの読み取りミスが顧客に届いた。または全件確認で速くならなかった | 確認の場所と条件を決めていない | 3つの問いで確認を置く工程を選び、金額などの条件で絞る |
| 作った人しか中身を知らず、止まったら誰も直せない | 手順と図が残っていない | 印を付けた図と手順を共有し、分かる人を2人以上にする |
最後の失敗は、自動化の仕組みそのものが属人化した状態です。1人しか中身を知らない業務を減らす方法は、「属人化を解消するには?」の記事で扱っています。
ミナミさん
現場の業務改善担当
前に入れたRPA、画面が変わったら止まって、作った人も異動しちゃって……。
スパーク先輩
DrillSparkコンサルタント
それは技術の失敗というより、図と手順が残っていなかったのが原因だね。どの工程をロボットに任せているかが図にあれば、止まった所もすぐ分かるし、引き継ぎもできるよ。
まとめ|まず1つの業務を図にして、工程ごとに印を付ける
自動化は「業務を選ぶ → なくす・まとめるを先に → 工程ごとに印を付ける → 人の確認を条件で残す」の順で決めます。
この記事のまとめ
- 候補の業務は、量・手順・入力・影響・続く期間の5つの基準で比べて選ぶ
- 自動化の前に、なくせないか・まとめられないか・順番や担当を入れ替えられないかを問う
- RPAは止まって気づける、AIはもっともらしく間違える。この差で確認の置き方が変わる
- 工程に5つの印を付け、人の確認は社外に出る・取り消せない・説明が要る工程の手前に条件付きで残す
「どの業務を自動化するか」は業務の単位で、「どこまで任せるか」は工程の単位で決めます。前者は判定表で、後者は印を付けた業務フロー図で決まります。稟議には、その図と今の年間の作業時間、小さく試す範囲をそろえて出します。
まず判定表で上位に来た業務を1つ図にし、工程ごとに5つの印を付けるところから始めましょう。
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